行政と住宅性能の関係、鳥取県の省エネ住宅「ne-st」策定に関わって感じたこと

鳥取県は2020年7月から独自の住宅省エネ基準とっとり健康省エネ住宅ne-stを策定し、認証と補助金の交付をはじめました。自分は策定の実務者会議の末席に加えていただいて、貴重な経験をさせていただきました。

目次

とっとり健康省エネ住宅ne-stの基準は3段階

概ね月次~2ヶ月に一度程度会議が開かれ、議論をしました。熱損失を考えればQ値が良い、いやいや、より厳密に暖房需要が良い、地域区分実情にそぐわない、、、などと様々な意見が出ましたが、普及と運用の観点から、Ua値で縛ることになりました。個人としては、暖房需要の考え方を信奉していますが、実効性こそ大切なので、異論はありません。

さらに気密測定と定常結露計算が添付書類として必須で、技術研修をクリアした施工者+設計者が申請可能です。細かい話は、鳥取県のwebサイトに書いてあります。

補助金こそついていますが、現行の省エネ基準では、県民が真に性能が高い住宅を選ぶことが困難であるため、あくまで県としての推奨する目安を示すのが目的です。

基準策定の経緯

元々2015年に発足し、有志で高性能な住宅の普及に取り組んでいた「とっとり健康省エネ住宅推進協議会」と、県との連携が本格的に2018年頃から開始されたことが始まりです。

2019年2月、県と協議会が主体となった懇談会で、公的な基準を作る要望が出され、

  • 諸外国では高い性能が義務化されていること
  • エネルギー削減だけではなく、健康にも効果があること
  • 消費者が真に高い性能を選択することができない

とし県が予算化。

2019年7月、協議会メンバーを中心とした基準策定へのワーキンググループが招集され、月次で会議が開始。

2020年1月、知事が年頭記者会見で発表し、同7月から運用がスタートしました。

参加させてもらった経緯と会議で感じたこと

たまたま県庁からメールで会議へ

僕個人は2019年2月に、たまたblogを見た県庁職員にメールを頂いて、協議会と県との懇談会にお声がけいただいたことがきっかけで、7月の発足時から参加させていただきました。

こういった会議は、決まったことを追認する形式的なものか、紛糾してまとまらないか、というイメージが少なくとも僕には合ったのですが、追認どころから、1から考える様相で、大変穏やかに膨大な議論が進みました。

協議会の頃からリードされた米子の小田原工務店をはじめ、全体として「鳥取県に良質なストックを残そう」という方向性にブレはなかったように感じます。

また、事務局をミヨシ産業さんが担われたこと、また社内にやたら計算に長けた社員の方がいたことが、基準策定時の根拠の積み上げに大貢献されました。加えて、課長、係長に至るまで前向きで、スロットが揃ったような幸運な布陣で会議ができました。

工務店は役に立てるのか

自分で言うのもなんですが、思ったより役に立てると思いました。理論やシミュレーションは研究者の方に劣りますし、政策の実装は行政の方には敵いません。しかし、顧客と接しているマーケットの感覚と、実際に現場を納めるまで考える解像度の高さで、貢献しうると感じました。それが、僕のように経験の浅い人間であっても。

あとは、ただ応援するだけでもよい、責任を持ってなにかをしようとすれば、孤独もつきものですから、ゆるい関係でサポートするだけでも価値があると思います。

策定した基準、厳しすぎる?

省エネ基準以上のものを行政として出すことは、民業圧迫で、そもそもクリアのハードルが高いのではないか、という話があります。

僕は実際に現場で施工する側の人間なので、正直手間代と工期さえ貰えれば(といっても外周に付加断熱するなら、1週間ぐらいでしょうか)、技術的には難しくないと感じています。もちろん、設計や細かい部分の納まりなど勘所はあると思いますが、通常の職人さんなら(もっと言えば職人さんでなくても)誰であってもできると思います。柱に押し込むだけですから。

一方で、効果自体は目に見えて有効。快適性、光熱費両面で施主さんの評判も上々です。特にT-G1であれば、付加断熱をせずともサッシを樹脂ペアにすれば届いてしまうレベルなので、ほとんど技術的な追加はないと言えるでしょう。普段高性能グラスウール100mmに樹脂アルミサッシ、という仕様でつくっているのなら、コストアップもせいぜいサッシの増分、数十万ではないでしょうか。

そうであるがゆえに、ぜひ一社でも多く認定をとって欲しいと思っています。

「お上」は「期待する」相手じゃない

行政と工務店の住宅性能に対しての利害

工務店はそこに家を立てて、あるいは家を直して、住み続けるお客さんがいて成り立つ商売。完全に地域経済にぶら下がる存在なわけです。域内で経済を回すこと=お客様が住む環境を長期的に良くすることは、住宅を建築する延長にあるとも言えます。

一方の行政にとっても、良質なストックと住民の健康は単純に支出減に。地域の人口や所得が増えることは収入増に繋がります。鳥取県には油田も、天然ガスもありません。エネルギーのような明らかに外部から調達しなければならない、かつ必要不可欠なものについては、できるだけ抑えるに越したことはない、という点で利害が一致しています。

行政とは共同作戦を

僕も含めて無意識に行政のことを「お上」と言いがちです。さらに加えて「期待する」とか無自覚に言っちゃったりします。

人間だって期待ばっかりされてたら、くたびれるか孤独になるかのいずれかです。行政も分解してみれば、中身に人がいて、同じ地域の住民でもあります。お上と遠ざけちゃったり、お客様になって期待する前に、一緒に意味があることをやるためにどうするか、知恵をひねるほうが、建設的だと今回痛感しました。

いえ、そんなこと頭ではわかっちゃいるのですが、肌感として腑に落ちた感じがします。

住んでいる場所の良き未来に向けて知恵をひねるというのは、僕にとっては純粋に楽しい時間でした。まあ余計な仕事が増えたと捉える事もできるのですが、人生なんて余計なことでできていますし、社会に接続してこそ「仕事」の張り合いがあるというものです!

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