寒い家は健康にも関係する?イギリスには冬の室内温度に指針がある

家づくりの先輩方のアンケートによると、家を建てる前に「室内温熱環境」に対する期待は第3位と高く、冬暖かく、夏涼しい家に住むということに重点を置く方が多いことがわかります。冬の朝は寒くて布団から出られない、夏の夜はクーラーを付けても蒸し暑くて寝られない、そのような家は、実は健康へのリスクがあることが研究によってわかってきています。

人は寒い家には住みたくない

引用: 何が省エネルギー行動を形成するか ~省エネ住宅設計の意思決定を例に~p.8 ,東京大学大学院工学系研究科 准教授 前真之

まずはじめに、家づくりの先輩たちがどのような点を優先して家づくりに臨んだかを見ていきます。関東の一都三県に新居を構えた住宅購入者515人のアンケートによると、 建てる初期の優先度として、1位「耐震性能・構造」2位「間取り」3位「室内温熱環境」といった順位になっています。

構造、間取りに次いで多くの方が家の快適性を指す「室内温熱環境」に重きをおいており、冬に寒い家、夏に暑い家には住みたくないことを示しています。しかし「室内温熱環境」の住んでからの満足度は11位までガタ落ちしており、このアンケート結果は、設計者からの提案や施工方法が家づくりをされる方の要望に添えていないとはっきり示しています。

家の寒さが人体に与える影響の大きさが世界的に注目

2009年にWHOの報告書で「室内の寒さの健康に対する影響」が指摘されるなど、室内の冷えが居住者の人体に大きな影響を与えることが世界規模で問題視されています。

健康意識の高いイギリスでは、冬における住宅すべての室温の最低基準が18℃と定められています。

また、寒波により氷点下を記録するアメリカでも、気温が低い北東部などで室内最低気温が定められています。

引用:APWcolumn1 諸外国の最低室内温度はこうでした(PDF)

日本の住宅の法制度化はまだ先

日本でも冬に氷点下を示す地域は多くありますが、日本での住居の寒さが身体に与える影響が実証研究がされていないため法制度化ができていないとのこと。確かに海外の性能や技術を持ってくるときに、メリット・デメリットを理解した上で導入することは大切だと思います。

しかし住宅の高性能化は、新築のときに設計・施工をすることがコスト的にもっとも有利であることがわかっています。日本では住宅着工統計より年間90万戸以上の住宅が供給されていますが、現行の国の基準以上に住宅の高性能化をする住宅メーカーや工務店も多くあります。情報を集め、暖かな家をきちんと設計、施工(工事)できる会社を選びたいですね。

イギリスでの冬の室内温度の指針は18℃以上

イギリスでは、住宅の健康被害について早くから着目し、住宅の健康度監査や暖房費用の支援などをおこなってきました。その一つとして、英国保健省が推奨する「推奨室温」が、イギリス保健省「イングランド防寒計画(Cold Weather Plan for England)」(2015年改定)で定められています。


※参照: 家づくりは欧米と日本でこんなに違う,うちの「わ」

18℃以上 住宅における全室の室温の最低基準

18℃未満 血圧上昇、循環器系疾患の恐れ

16℃未満 呼吸器系疾患に対する抵抗力低下

9~12℃ 血圧上昇、心臓血管疾患のリスク

5~8℃ 低体温症を起こすリスク

引用:英国の冬季室内温度指針,家族の健康を住まいから始めよう。健康長寿のための住まい方アドバイスBOOK p.7

疾患としては、血液の濃化が「心筋梗塞」を、肺の抵抗弱体化が「肺炎」を、血圧上昇が「脳卒中」を引き起こすとされています。

寒い家から暖かい家への転居で健康改善

(一社)健康・省エネ住宅を推進する国民会議が運営する、家族の健康を、住まいから始めよう。で紹介されている暖かい家に関する研究や実測データにおいて、以下の結果がでています。

寒い家から暖かい家に転居した27例において、起床時の平均体温が0.19℃上昇し、風邪、咳、冷え、皮膚のかゆみを訴える住人の割合が減少した。

高断熱住宅転居前後における居住者の血圧・睡眠・体温の変化に関する実測調査(その1)調査概要と居住者の症状・体温の変化、日本建築学会大会(関東)、2015.09

また、入浴時の心臓負担が軽減されることも報告されています。

高断熱の暖かいモデル住宅において居間室温22℃、廊下21℃の場合

入浴前と浴室での心拍数62→75(20%増)

断熱レベルの低い自宅では居間室温17℃、廊下13℃の場合

入浴前と浴室での心拍数60→80(40%増)

暖かい住宅では入浴時の心臓負担が軽減 , 家族の健康を、住まいから始めよう。

昨今、住宅内で亡くなる30%以上を占める「不慮の溺死・溺水」(全年代、2010年)は、血圧の乱高下によりおこるヒートショックが原因とわかっています。室内での温度差の小さい暖かい家で暮らすことは、健康であり、そして不慮の事故を防ぐことにつながっています。

まとめ

世界的に、室内の冷えが人体に大きな影響を与えることが注目されていますが、日本では実証研究が追いついていないためまだ法制度化はされていません。ただ今日の建築材料や施工技術を駆使することで、日本でも冬の寒いや夏の暑いといった家の不満を解消する住宅を建築することはできます。

イギリス保健省の設定する推奨室温で回避できる疾患は、日本人の死因上位2~4位の心臓病、肺炎、脳卒中(2016年)と重なります(1位はがん)真冬に全室18℃以上を保てる暖かい家に住むことで、そういった病気、死を避けることができるかもしれません。

また高性能で暖かい家では、起床時体温の上昇や、風邪、咳、冷え、皮膚のかゆみといった健康改善の報告がでており、持病のある方や高齢者だけでなく、子どもがいる世帯でも大きなメリットがあることがうかがえます。

多くの方が家づくりでこだわりたいポイントである「室内の温熱環境」。 高性能な住宅を建てるためには、購入時の安さやセールストークに流されないよう、早い段階から情報収集されることをおすすめします。すでに建てられた施主さんがブログなどで情報発信されていることがあり、性能に対する感想光熱費といった情報を参考にされると良いと思います。

この記事を書いた人

田上真由

三重県津市出身、大学では建築を学ぶ。水や空気といった大切なものは山が生み出していることを知ってから、自らも山間部に住むことを決意。新しい発見のある山暮らしを楽しみながら、木の家づくりを通して山に関わっていきたいと思っている。鳥取県の智頭町へ来て、床張り壁塗りといったDIY、斧で薪割りするのを覚えたところ。