現場が決算に振り回される

決算期が近づくと、弊社に限らず、ソワソワします。
今期中の工事にしたいので、職人が残業をしだす、内装工が急かされる、前倒しで設備を入れ、登記をかける、といったことが起きたりします。逆に来期に回したいので、完成しないよう調整してスローペースにする、ということもありえます(あんまり少ないないかな、、、)これらは、会計基準の影響がとても大きいと思っています。

目次

なぜ決算で工事に影響がでるのか

1.会計基準と決算数値のプレッシャー

多くの会社は工事完了基準


日本の多くの工務店は「工事完了基準」で売上を計上しています。
合理的に進捗率を把握できない場合、成果品引渡を基準とする工事完了基準が認められており、多くの工務店は、このやり方を採用しています。(※具体的な比率がわかりませんが、僕は進行基準で計上している工務店にあったことがありません)
会計がシンプルになり、完了まで売上が発生しないため税金が後ろ倒しできることからメリットもあるのですが、期末までに引渡せるか、来期にズレ込むかどうかで売上そのものが“ゼロか百か”の世界になり、利益も翌期へ持ち越しとなります。
例えば3棟期をまたいで翌期に動くとすれば、概ね1億程度の売上と、伴う利益が2000万以上今期からなくなるということになります。
年間10棟満たない程度の会社では、決算が簡単に赤字になってしまいますので、社内には「今期中に引き渡す、住宅ローンを実行してもらう」という圧力がかかります。

選択すれば工事進行基準も

これに対し、工事進行基準というものがあります。会計原則上はこちらが推奨されています。この方法で計算すれば進捗度に応じて売上を計上できるようになり、完了基準ほど慌てる必要はなくなりますが、合理的な進捗度の測定というのが、ちょっと手間というネックがあります。(通常、原価総予算に対する原価の消化率で測定することが多いです)。

もちろん、完了すればその分は売上になるわけですから、プレッシャーが無いわけではありませんが、進行基準のようにゼロか百か、ということにはなりません。黒字の決算書は経営者の気分にも影響しますし、金融機関に対しての印象も変わります。

厳密には、2021年から新収益認識基準が適用され、
工事完了基準は「一時点で充足される履行義務に係る収益認識」
工事進行基準は「一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益認識」という名前になりましたが、便宜上進行基準と完了基準というの名前を使っています。

2.資金繰りとキャッシュフロー

多くの請負契約は「契約金」「中間金」「竣工金」という三つの支払い区分で構成されます。

  • 契約金:契約締結時に受領
  • 中間金:上棟時や特定工程完了時に受領
  • 竣工金:引渡し後に受領

単純に会社の資金繰りのため回収を早くするのは当然ですが、財務的にも最終金の入金が決算直前に間に合えば、現金残高が増加し、自己資本比率や流動比率などの安全性指標が改善します。金融機関はとくに「期末現預金残高」と「売掛金の回収、回転期間」を重視する傾向にあり、ここが改善すると翌期の融資枠や金利条件にも影響を与えます。

3.業績連動の社内評価

賞与などの評価指標が「完工高」や「粗利額」で設定されている会社も少なくないかもしれません。期末に向けての追い込みは個人の評価に直結します。これは短期的なモチベーションには作用しますが、品質リスクや労働安全リスクを高める側面も無視できません。

進行基準なら、マシなはず

スケジュールを詰め込むほど、品質は低下し職人の疲労が蓄積します。
それでもお子さんの入学や転職等のタイミングがあれば、それに向けて努力するというのは現場にもまだ説明ができます。しかし、決算というのはあくまで会社の都合でしかなく、一方で軽視もできないジレンマがあります。
プレッシャーを下げるために弊社は一昨年から進行基準に変更しましたが、未だ手作業が残ることもあり、負荷削減のために会計システムとの連動や仕組みづくりを行っています。

メインの金融機関にも最低四半期に一度は見通しを提示して、説明の負荷が上がらないよう努めています。
また、現在の弊社の規模では、業績と個人の成績を結びつけることに懐疑的な立場なので(みんなで頑張って矛盾なくいいもの作ってお金もちょっとはついてこさせようぜ、的なノリが好きなので)業績に引きずられて個人が仕事を追い込む、ということはあまりないかなと思っています(期末に全体の利益に対して山分けする決算賞与としています)。

たぶん、会社としてはこちらのほうがお施主さんに対して誠実に動けるはずです。引き続き、これからも試行錯誤を続けていきます。

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