戸建住宅の60年保証は可能なのか

住宅を新築するとき、近年は「長期保証」を謳う工務店やハウスメーカーをよく見かけます。中には「60年保証」といった、非常に長期にわたる保証をも見かけます。実際、新築住宅には住宅瑕疵担保履行法による最低10年間の保証義務がありますが、60年という期間はそれをはるかに超える長さです。
我々工務店にもこうした「長期保証で大手ハウスメーカーに負けないようにしませんか」という保証系サービスの案内も届きます。
では、冷静に考えてこの保証は成立するのでしょうか。


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保証と保険の関係は似ている

「保証が長ければ長いほど安心」と言われると、当然「それならば長い保証に越したことはない」と思われがちです。しかし、生命保険料を例にするとわかりやすいように、長期間のリスクを引き受けるには、それ相応のコストがかかります。仮に、保険会社が無条件に契約者の医療費や死亡保障を長期間にわたってまかなうとしたら、その契約者が支払う保険料はかなり高額になります。

たとえば、30歳男性が3000万の定期生命保険をかけた保険料は以下のようになりました。(出典はライフネット生命、2025年2月現在)

保証期間保険料月々保険料合計
10年間2,704円/月324,480円
20年間3,757円/月901,680円
30年間5,593円/月2,013,480円
60年間20,272円/月 14,595,840円

当然ですが、期間が長くなるほど、必要な保険料が月々も、そしてもちろん総額でも上がっていることがわかります。
住宅の長期保証もまったく同じで、60年という期間のあいだに発生する、さまざまな不具合や修繕を無償、あるいは低価格で行うとなれば、その負担は最終的に誰が負うことになります。多くの場合、保証を受け続けるための条件や、定期点検・メンテナンスの費用が別途必要であるなどの“からくり”が存在し、それらの条件を満たさないと保証が打ち切られます。

企業である以上、帳尻は合わせなければいけません。弊社が保証を謳うとするなら、それなりの対価あるいは逃げ道を用意せざるを得ませんし、これはどこの企業でも変わらないはずです。

保証制度自体を忘れてしまうことも

また、“死蔵率”という考え方があるように、住宅の保証においても「いつのまにか保証書がどこかへいってしまった」「定期点検の連絡を見落としていた」といった理由で、保証制度を活用しないままになってしまう方もいます。家電製品の5年保証でさえ、活用しきれないケースが多いのではないでしょうか。
住宅の場合はなおさら保証期間が長いため、条件を満たせないまま打ち切り、あるいは失念してしまうリスクが高まります。長期保証といっても、結局は住む人の意識や、保証の条件への正しい理解が伴わなければ、その恩恵を得られない可能性が高いのです。そのメンテナンスコストは通常非開示であり(将来の工事費であるため当然ですが)結局いくら掛かるかもわかりません。

保証より先に予防できる家づくりへ注力したい

実際には、多くのハウスメーカーや工務店が「定期点検や有償メンテナンスの実施を条件とした延長保証」を設けており、それは保険会社が契約者の保険料によってリスクを分散する仕組みに近いものです。
長期保証を過信せず、生命保険と同じように「どの範囲で・どの程度のリスクを・どのように負担していくのか」を冷静に見極めて頂きたいと思っています、またそのためには予防としての定期的なメンテナンスや点検をしっかり行っていれば、家は想像以上に長く住み続けられます。

もちろん、弊社として住宅機器の保証や瑕疵の10年保証はかかっています。むしろ長期間にわたって長持ちする家を作りたいと心から願って居ますので、別途有償のメンテナンスをしながら、長期間保証し続けることは可能です。

ただし、保証するというからには、リスクの分だけ費用をいただくことは、弊社であったとしてもお願いせざるを得ません。
率直なところ、売るための目移りのよい言葉よりも、技術者として、家が長く持つように、メンテナンスしやすいように作り、また予防方法について、共にお手伝いするという姿勢が、最終的にお施主さんの負担を最小限化できるものと信じています。
そっちの方が会社として格好いいと、思っています。

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